Gentle kiss







「なぁ、啓太と中嶋さんって本当に付き合ってるのか?」

1日の授業が終わり、帰り支度をしていると
他愛のない会話を交わしていたはずの和樹から突然そんな事を言われた。

「あっ当たり前だろ!!!」

俺は少し照れながら、でも胸を張って主張する。
しかし和樹の表情は怪訝そうに歪むだけだった。

「ふーん…じゃぁセックスもしたんだ?」
「は?!なななななに言ってんだよ和樹!!!」

俺は和樹のストレートな言葉に顔を赤くする。
でもそんな俺とは対照的に和樹は眉間にしわを寄せて「したんだろ?」と言いたげに睨んでくる。

「そっそりゃぁ、まぁ…」

観念した俺は和樹の顔から目線を落としながらゴニョゴニョと肯定した。
そんな自分が恥ずかしくなってきて、自分でも分かるくらい耳まで赤くなっていく。
でも、和樹の顔は更に歪むだけだった。
そして一言「あっそ。」と機嫌の悪い子どものように言い放った。

「なっなんだよそれ!」

そんな和樹の反応に俺は腹が立ち、バンッ!!と机を叩きながら俺は立ち上がり和樹を睨んだ。

「俺はただ和樹の質問に正直に答えただけじゃないかっ!なのになんでそんな顔されなくちゃいけないんだ!!」

俺は思ったことをそのまま言った。
すると和樹は立ち上がり俺の左肩をグッと掴む。

「お前…本当に中嶋さんに愛されてると思ってるのか?」

真剣な眼差しで発せられた言葉に、体中が一気に固まっていくような感じがした。
和樹の手を払いのけ「当たり前じゃないか」と言いたいのに体が動かない。
言葉が喉に突っ掛かって出てこない。

「なっなんで、そっそんな事言うんだよ…」

精一杯絞り出した声は先ほどの威勢は無く、ひどく弱々しいものだった。
和樹を見ることが出来ず俯いてしまう。

「中嶋さんはお前に好きだと言ったのか?俺にはお前だけだ、とか言ったのか?」

俺の肩を掴む和樹の手には、眼差しには益々力が入る。
俺はもう何も言えなくなってしまった。
和樹に反論したいはずなのに。
言葉なんて無くたって俺は愛されてるんだってちゃんと言いたいはずなのに。

束の間の沈黙を破ったのは和樹だった。
ふっと短い溜息をし俺の右肩もグッと掴み半ば強引に俺と目を合わせてきた。

「お前は、ただの性欲処理に使われてるだけだよ。」

グサリと大きな音を立てて何かが胸の辺りに突き刺さった気がした。
体中の力が地面に吸い取られたかの様に力が入らない。
和樹の声が遠のいていく気がする。
それでもこの場に、和樹のいる所に居たくない一心で今出せる精一杯の力で和樹の両手を振りほどき教室の外へと走り出した。



"ただの性欲処理"

走りながらも和樹の言葉が頭をこだまする。
本当は誰よりも自分が思っていた。
でも認めたくなくて気が付かないフリをしていた。

言葉なんてなくたって良いだって。
好きだから一緒に居るんだって。
好きだから…そーゆーコトをするんだって。
自分に一生懸命言い聞かせていた。




ドンッ

無我夢中で走っていた俺は角から出てきた人物とぶつかってしまった。
相手との体格の差に負け、後ろに転んでしまい大きく尻餅をついてしまった。

「いったー…」
「…啓太か。」

頭の上から降ってくる声に体がビクリとした。
この声の主を俺は知ってる。
すごくすごく好きな人で、毎日毎日会いたい人で
…今は一番会いたくない人。

「なっ中嶋さん…?」

俺は思い当たる声の主の名を呼びながら恐る恐る顔をあげてみる。
人違いなら良いと微かな希望を持ちながら…。

でもすぐにそんな希望は崩された。
俺の目の前には、すごくすごく好きで、毎日毎日会いたくて、でも今一番会いたくない人が立っていた。

「なにをしている。」
「…えっ?」

中嶋さんは怪訝そうにこちらを見ながら眼鏡をくいっと上げる。
いつもなら愛しく思えるその姿も、今の俺には世界中の何よりも恐ろしく感じてしまう。

「今日は手伝いに来る約束だっただろう?」
「あっ…」

中嶋さんの一言に昼休みに食堂で学生会の手伝いを頼まれたことを思い出す。

「ごっごめんなさい…今日は……」
「もたもたするな。行くぞ。」

中嶋さんと目を合わせないように地面を見つめ
ボソボソとありきたりな口実を言い終える前に中嶋さんはピシャリと遮り、スタスタと歩いて行ってしまった。

付いて行きたくなかった。
きっと王様はまたサボっているはず。学生会室に中嶋さんと2人きり。
いや、例え王様がいたって同じだ。
中嶋さんの近くに居ることなんて、今の俺には何よりも辛いくて想像するだけで苦しく涙が出そうになる。
なのに足は中嶋さんの後を追ってしまう。気持ちとは正反対に。






―――ガチャリと学生会室のドアを開けると、やっぱり王様は居なかった。
山済みの書類が散乱して、コーヒーの匂いがして、ちょっとだけ煙草くさくって…。
つい先ほどまで学園の中で一番落ち着ける場所だったのに、今は一番居心地の悪い場所に変わっている。

「啓太、ここの書類をまとめてくれ。」
「はっはい。」

中嶋さんの声に過剰に反応してしまう。
きっと中嶋さんだって気付いているだろう。いつもと違う俺に。こんなにあからさまに態度に出ているのだから。
でも何も言ってくれない。
無言でパソコンに向かいカタカタと規則正しい音を奏で始める。
その音が「お前には興味などない」と言っているように聞こえた。


"性欲処理"

頭の中で囁く。
和樹じゃない、他の誰でもない自分が。

泣きそうになるのを唇を噛み締め必死に堪える。
震え出す手に力を入れて作業を始める。中嶋さんの居る机から一番離れた場所で。




無機質なパソコンの音しかしない部屋。
どのくらい経ったのか分からないけど、いきなり中嶋さんが口を開いた。
パソコンの画面を見つめながら、規則正しい音を奏でながら。

「何があった。」

中嶋さんの投げかけた質問に俺は何も言えない。
きっと、言ったら中嶋さんは怒るから。
面倒くさそうな顔をして、すぐにこの場から追い出されてしまう。
…捨てられてしまうから。
俺は益々唇に力を入れて黙り込んだ。

「何があったのかと聞いている。」

再び中嶋さんは口を開く。
今度は手を止め、俺のほうをじっと見つめながら。

恐る恐る中嶋さんの方を見ると、射抜かれるかの様な視線で見ている。
この目は苦手だ。
どんなに言わないと決めた事でも、言わされてしまう目なのだから。

「…かっ和樹が…」
「遠藤がどうした」
「…いや、和樹じゃなくて、その…」
「啓太、はっきり言え。」

言葉を濁す俺に耐え切れず中嶋さんは席を立ち、俺の目の前に立った。
そしてさっきよりも強い口調で問うてきた。

「なにがあったんだ。」
「…おっ俺は…俺は、なっ中嶋さんの、せっ性欲処理機ですか?」

今まで一番聞きたかった事を口にした瞬間、今まで耐えていたのと一緒に涙が溢れてきた。
そんな俺に中嶋さんは軽い溜息をついた。
中嶋さんの答えは分かってる。
「今まで気付かなかったのか?馬鹿なヤツだ」というに決まっている。
俺はもう中嶋さんの傍には居られない。
こーゆー煩わしいことが一番嫌いな人だから。

「啓太。」

中嶋さんは俺の顎を掴み顔を上げさせた。
俺の涙で溢れる目に、目線を合わせ「ふっ」と口の端を上げ軽く笑う。
でもその表情は、馬鹿にしているような顔ではなくて、すごく優しい顔のような気がした。
そして顔を近づけ…キスをしてきた。

「んっ…」

俺はぎゅっと目を瞑り、中嶋さんの気持ちが分からず困惑した。
そんな俺を知ってか知らずか、中嶋さんのキスは激しくなるだけだった。

「なっなか、じまさっ…!!」

少しの隙を縫って名を呼び、手で制止しようとする。
でもその手を掴み、俺の声を飲み込み、中嶋さんはキスを止めない。
クチュッと音を立て激しさを増すばかりだった。

やっと開放してくれた時には、窒息死してしまいそうだった。
荒く肩で息をしながら、チラリと中嶋さんを見る。
周りの空気を必死に吸い込む俺に対し、中嶋さんは何事もなかったかのように冷静だった。

「遠藤に何を言われたか知らないが"性欲処理機"だと?」

クッと笑ながら俺の腰に手を回し、そっと耳元で囁いた。

「俺は"性欲処理機"にはキスをしない主義なんだ。」

そう言いながらまた唇を重ねてくる。
初めて味わう優しいキス。
…違う。
初めてなんかじゃない。
中嶋さんのしてくれるキスは、いつもいつも言葉以上のモノがつまった優しい優しいキスだった。
そんなことに気が付かず疑っていた自分をとても馬鹿だと思った。


そしてまた中嶋さんは俺の耳に口を近づけ囁く。

「・・・・」

その言葉に俺は、また涙を流してしまった。
さっきとは違う、幸せの涙を…






End



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学ヘヴ処女作品。
あーもうメチャメチャで申し訳ないです。(土下座)
そして和樹がすんげぇやなヤツに…。
和樹が嫌いな訳じゃないんですよ!!!ホントにホントに!!!
ただ意地悪なコト言いそうなのは誰だろー。と考えたら一番に出てきただけで…。
…嫌いじゃないんですってばぁ!!
何はともあれ(?)ココまでお付き合いくださった皆様、有難うございます!!



2005.03.×× Hana.K